June 9, 2009

「アラベスク」

「アラベスク」はイタリア語で「アラビア風」という意味の
アラベスコから来た言葉であり、
「アラビア風の装飾模様、文字・蔓草・幾何学図形などを図案化したもの」です。
狭義には唐草模様等の植物文様だけを指しますが、広義には動植物文様、
幾何学文様、文字装飾を組み合わせて作られる装飾技法の総称であり、
イスラム美術の特徴をよく表現する言葉です。

イスラム芸術は、宗教的に制約された表現手法の中にありながら、
逆にその制約を効果的に生かすことによって、独自の美の世界を築き上げてきました。
つまり、自然界にあるカタチを写実的に表現することができないために、
それらを抽象的なパターンとして用いるという一定の形式に則った技法として
発展してきたのです。

幾何学文様は、アラベスクの基本的なパターンです。
円、三角形、多角形、星形などを繰り返す技法で、
定規とコンパスで描くことができます。
ひとつの円を中心として完結した文様となりますが、
それを繰り返し、対称、複写などを利用することで、連続文様ともなります。
その結果、平面的な技法でありながら、同じ旋律を繰り返すことによって出現する
何層にも連なる世界、そして無限に連続する宇宙的な世界が創出され、
神の世界をも表現する芸術へと昇華させたのです。

幾何学文様
前述が長くなりましたが、一見装飾的に見えるアラベスクは、
実は非常に「シンプル」なデザインであると感じます。
平面的、無機的、抽象的であるのに、
複雑で無限の宇宙的な世界観を創り上げています。
また宗教芸術といった伝統的なものであるのにもかかわらず、
ミニマル・アートのような現代的な感覚を併せ持っています。
神や宗教といった言葉だけでは到底表現できない世界を
定規とコンパスで簡単に描ける次元にまで削ぎ落としたデザインを見ると、
改めて「シンプル」という言葉の意味を考えさせてくれます。